キャンディ・トーク
『キャンディ・トーク』
「ガイ」
呼ばれ、顔を上げる。小さな、放物線を描くものを咄嗟に手で受け止める。
「っと……、何だ?」
握った拳を開いて寄越されたものを確かめると、それは子供が喜ぶようなカラフルな紙に包まれたキャンディだった。
「ナイスキャッチ」
弾むようなルークの声に、ガイは苦笑する。
「どうしたんだ、これ」
聞くと、ルークはちょっと口を尖らせがちに言った。
「道具屋で、沢山買い物したおまけってくれた。ガキじゃねーっつーの」
そう言ってへそを曲げるルークは子供そのもので、ガイは笑いを堪えない。
「ガイ、お前笑い過ぎだ」
声をあげて笑うガイを、ルークは軽く睨んでそのままガイのベッドに腰を下ろした。俯き、靴の先を見つめて黙るルークに、流石に度も過ぎたかとガイは素直に謝る。
「悪い、ルーク」
それでもルークは顔を上げない。再び声をかけようと、ガイが口を開いた瞬間、静かにルークが言った。
「……俺さ、やっぱガキに見えるんだよな」
散々、今までガキじゃないと否定し、怒ってきた。それなのに認める言葉に、ガイは驚く。子供と言われて怒るのは、子供であるのを嫌うからだ。自分一人では何も出来ないと、笑われるのを恐れるからだ。
自分が、至らないと認めるのは嫌で、目を逸らす。ルークは背を向けたまま話した。
「世間知らずで、大人から見たらまだまだガキで…。馬鹿ばっかやって」
「…ルーク」
「みんなには、本当に感謝してるんだ。お前にも…」
小さい頃から兄のように面倒を見てくれたガイの笑顔が、本心からの好意によるものでないと、知っていても。屋敷に戻された後、知らない外の世界に繋がる空を、飽きずに見上げているのを探してくれたのも。外気に冷えた身体を抱き締めて暖かいベッドに寝かせてくれたことも。
覚えているし、嬉しかった。
たとえ、いつ殺そうと考えながらだったとしても。
「俺は、お前に何かして貰うばっかりで」
歯痒さに言葉を切って唇を噛む。ふと、ルークは何かに気付いたようにガイに顔を向け問うた。
「何か俺に…」
「ルーク?」
「なぁ、何か、俺にして欲しいことないか? ガイ」
切実に、願いを乞う。
「ルーク…俺は、別にお前に見返りを望んで何かしてるわけじゃないぞ。ジェイドやティアも、ナタリアやアニスだって」
「でもっ!!」
ベッドに乗り上がって、ルークはガイに詰め寄る。ベッドヘッドに寄り掛かっていたガイの両肩を掴み、顔を寄せる。
「俺は、お前に何かしてやりたいんだよ」
「な、何か、って……?」
思わぬ至近距離で、ガイは声がどもる。
切なげに寄せられる眉。吸い込まれそうな、翡翠のような瞳がじっと見つめてくる。形の良い唇が目の前にあって、ガイは理性と戦う。が、
「…俺が出来ることなら、何でも」
ルークのこの一言で理性が負けた。
「ガ、イ…?」
腕を伸ばしてルークの後頭部に添える。引き寄せるように力を込めて、顔が近付いた。きょとんとしたまま、ルークは瞼を閉じない。二人の唇が、触れ合いそうになるその瞬間、
「…私は構いませんが、貴方がたは私の存在が見えて無いようですねぇ」
との声に動きが止まった。
まるで油の切れた機械のように首を回して、ガイは慄く。
「じぇ、じぇじぇじぇじぇじぇ、ジェイドっ!! 何時からそこに…っ!!?」
「何時からも何も、初めからいましたよ。ああルーク、ティアがあなたを探してましたよ」
今一状況が掴めずにいたルークは、その言葉にはっと意識を返す。
「あ…、ティアが? 分かった。ありがとう、ジェイド」
言うなり、ベッドを降りて部屋から出て行く。残されたガイに一人、気まずい空気にに押し黙る。
「それにしても、ショックですねぇ。私はそんなに存在感が薄いとは思ってもいませんでしたから」
わざとらしく手を広げ肩を竦める。それはショックを受けたようには見えずむしろ楽しんでいるように見える。
ガイには今までで一番、ジェイドが憎く見えた瞬間だった。